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今年に入ってようやく、実地訓練のスケジュールが掃けた。
全てを偽り、異なる社会に属すこと一年。所属から脱退までの流れを自己評価として振り返るなら、百点中六十点と言ったところか。
完璧とは言い難い潜入だった。不覚にも周囲に溶け込みすぎたせいで、かなり厄介な人物に明確な印象を残してしまった。
しばらく関わらないとはいえ、何らかの理由で関わる事になった際は、充分な注意を払わねばならない。
そうなった場合、騙せる事に越した事はないが、一番の得策は、彼女の目の届く所で存在が露見するような真似をしない、であろう。
しかし、今回の一件さえなければまだ良かった。最後の最後で、こんな邪魔が入るとは誰が予想できただろうか。
服装や顔は煤で汚しながらも、執事服を着こなすオールバックの少年は、電灯と車のライトのみが灯る過密都市の路地裏を疾走する。
荘厳と聳え立つ鋼鉄のビル群の影に隠れ、周りの気配を伺う。ずっと走り続けていたせいか、息が上がっている。
この私、流川弥平が何故物陰に隠れながら移動しているのかと問われれば、発端は三時間前に遡る。
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