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アーマースーツを着込んだ少年、流川弥平は、地面に倒れ込んだ澄男を、遅れて駆け寄ってきた水守御玲に任せ、裏鏡の方へ身体を向ける。
澄男を心配する表情から一転。裏鏡を強く睨みつけ、ナイフを引き出す。彼からは刺々しい感情が見え隠れする。
「もう、ここまでです。これ以上の戦いは無意味。武器を下ろしなさい」
弥平から放たれた声音は驚くほど低い。しかし、それでも裏鏡は無表情で見つめたまま、立ち尽くすのみである。
ほんの少し睨み合った末、弥平は肩を竦めた。
「……私達は戦いを望んではいません。貴方に相当な情報収集力があると推測し、接触した次第なのです」
「……」
「貴方なら私たちの実情も察している筈。どうか、お願い致します。私達に、敵組織の情報をお渡し下さい」
弥平は深々とお辞儀をした。腰を四十五度曲げた最高敬礼。本来、する義理などないけれど、穏便に事態を終息させるに越したことはない。
裏鏡の立ち振る舞いを考えれば、謙譲の態度をとるのが最良だ。
裏鏡の顔色は尚も変化しない。だが辺りを流れていた暫しの沈黙を、何の因果か、彼は唐突に、何の前触れも無く破った。
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