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「……俺は撤退する」
それは大気にすぐには馴染まない、濃い声音。弥平と御玲は、自身の鼓膜の揺れを明確に感じとる。
「弥平、撤退とは即ち敗走と言ったな。望み通り、俺が知っている情報をくれてやろう」
裏鏡は静かに刀を鞘へ収めた。風通しの良くなった更地に、微風が通る。
「お前達が追っている存在は、遥か北方の地よりやってきた。地の名を、ヴァルヴァリオン」
弥平は悔し紛れに歯噛みする。
己の仮説、擬巖が敵の首魁、という線は希薄になった。
やはりあくのだいまおうの言っていたことの方が正解なのかもしれない。信用するとは言ったが、やはり全面的には不安があった。
個人的には仮説の方が正解であって欲しかったが、現実はうまくいかないようだ。
「ヴァルヴァリオンは今、新設大教会と呼ばれる組織が牛耳っている。その者は、その組織から派遣された」
弥平の思索をよそに、裏鏡の語りは続く。
「巫市農村過疎地域。そこに支部の拠点がある。詳しくはお前達で探すがいい」
彼の語りは横柄に締めくくられた。一字一句逃したりはしていない。弥平は手を挙げる。
「一つ質問を。何故そこまで知ってるんです? 貴方には関係の無いはず。もしや」
「澄男を打ち砕いた後、俺が潰す予定だったからだ。俺は強者を求め、大陸を行脚しているからな」
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