初めての黒星

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 唖然とした。  内通者がいるという証拠は掴んでいた。そして目星もつけてはいた。  佳霖(かりん)を疑っていたのは言うまでもないことだが、ただ単に敵組織に情報をリークしているだけの存在だと思い込んでしまっていた。  だが、その前提こそが、敵の罠だったのだ。  内通者が首魁であるはずがない。首魁はまた別にいて、組織の末端なのだと。  先入観にまんまと嵌ってしまった。寄生した集団とは、まさしく流川(るせん)本家派のこと。本家派の信頼を得れば、分家派の信頼も自動的に得られる。  幹部クラスの座につき、水守(すもり)家の部隊を動かせる程の実権を有していたのだから、流川(るせん)が彼に絶大な信頼を寄せていた証拠だ。  しかし、その信頼自体が裏切りの伏線。  仮に裏切りがバレて、敵としてマークされても、ただの内通者というイメージで捜査が進む。  流川(るせん)の幹部クラスが何者かと内通している。でも、敵の首魁ではないはずだ。首魁はきっと別にいる、と。  信頼を下に先入観を植えつけることで捜査を撹乱させ、どこかにいる別の首魁を想起させる。そうすれば、時間をかなり稼ぐことができる。  流川(るせん)の幹部が別組織と内通しているというだけで、内通先の分析を行わなければならなくなるし、そもそも事実の裏付けなどもしなくてはいけない。
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