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「俺は澄男の戦いに更なる高みを垣間見た。執念……今の俺には風化しかけていた感情だ。今宵、俺は修行し直す事にする」
裏鏡の銀髪が風に揺れた。鏡面加工されたような髪は、太陽光を全力で乱反射させる。
弥平と御玲は、網膜から伝わる痛覚に、思わず眼を細める。
「此度の戦い、極めて賞賛に値する。よって澄男、お前に暫時、白星を預けよう。修行が終わり次第、俺は再び、この地に戻る。……奴に、そう伝えておけ」
虚空が歪み、水面のように波打つ。波形を描く水面に体を押しつけるように、空間の境界面へ、身体はみるみるうちに染み込んでいく。
最後の最後まで命令形を崩さなかった裏鏡。彼は背後にいる三人に手を振る事もなく、振り向きもしない。
ひたすら悠然と、飄々と、更地と化した平原に浸透していく。まるで姿見に入り込むかのように。
彼らは聞き逃さなかった。彼が虚空へと消える寸前、最後に放たれた、色濃い余韻を残す、言の葉を。
「然らばだ」
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