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畏まりましたー、と軽い態度で返事をする。
実際に魔人と呼ばれる存在を見たことはない。佳霖から、そういう化物の話を聞かされた程度で、そこまで深い関心があるわけでもなかった。
正直命が惜しいので、調べても目当てがでてくるか分からない割に命の保証がないような調べ物は、やらないに越した事はない。
『我々は先にヴァルヴァリオンに向かう。出立の準備をせよ』
佳霖は、霊子通信を切断する。
十寺は更地になった上威区の方角を眺めながら、悪辣に唇を吊り上げた。
夕焼けの光は赤く、彼の笑顔を更に薄気味悪いものへ塗り替える。沈みゆく夕日が、暗黒の宵闇が訪れる事を示唆しているかのように。
「会うのが楽しみだよ、澄男ちゃん」
ふふ、とか細い笑みをこぼすと、十寺の姿は透明になって消え、紅霞に満ちた情景に溶け込んだのだった。
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