プロローグ:異界からの使者

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 今日は父上から言い渡された実地訓練最終日。本来ならば、潜入先である巫市(かんなぎし)の政府機関から円満退去する予定であった。  しかし、その予定だった今日。  正体不明の何者かによる襲撃を受け、政府関連施設から命からがら逃亡しなければならない羽目になった、という訳である。  相手は、かなりの猛者。  的確な襲撃。執拗な追跡。此方に一切の情報を与えず、撤退を選択させる手際。  流川(るせん)弥平(みつひら)の事をほとんど知り尽くした上で、全てが意図された戦術。  どれを取っても今までの人生で、一番の猛者である。未だ襲撃者の姿すら目にしていないのが、なによりの証拠だ。  相手からも同じであるはずなのに、どういう事か。自分の位置と退路を的確に把握し、攻撃を仕掛けてきている。  誘い込まれているのか。ならば魔法による撹乱処置を行いつつ、見えない敵から距離をおく。  気取られていない筈。だが相手の練度を考慮し、最悪の想定をしておくことに越したことはない。  ありったけの集中力を気配察知に割り振り、首筋に一筋の雫を垂らす。
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