First page

12/12
89人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
涙で文字がぼやけていく中、本はラストの1ページに差し掛かる。私への想いで溢れたこの本の最後に、圭介は何を綴ったのだろうか。 〈俺が音楽から離れたと知ったら希望はどんな顔をするのかな。安心した顔?それとも…悲しい顔?どっちか分からないけど俺は後悔してない。こんなにも長く夢を追い掛けて突っ走ることが出来たから。無性に歌いたくなった時は希望の隣で歌えばいい。音楽は音を楽しむものだから、希望と二人で楽しめるなら最高に幸せだ。 今の俺は、音楽よりももっと大切な夢を見つけることができた。それは希望と一緒に幸せな家庭を築くこと。小さな幸せを二人で拾い集めよう。そして、気付けば歌を口ずさんでるような楽しい家庭を築きたい。 絶対その夢を叶えてみせる。希望を愛する気持ちは誰にも負けない。負けてたまるか。 だからいつの日か「俺と結婚してください」って胸を張って言えるように、今日も一生懸命夢に向かって突っ走ります〉 パタン、と静かに想綴本を閉じた。 「…~っ、」 感動超大作と謳われる映画を観てもここまでの涙は出なかったのに、今の私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、きっと物凄く酷い顔をしていると思う。 そんな時に限って聞こえてきたのはガチャ、という玄関の扉が開く音で、思わぬ展開に慌てふためいた。 ーーーどうしよう。圭介が…帰ってきた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!