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確実に近付いてくる足音に狼狽する。 とにかく泣きはらした顔を見られないようにと、部屋の入口に背中を向けるのが精一杯だった。 本を元の場所に戻すこともできず、隠すことさえもできない今の状況に困惑していると、真後ろから聞こえてきた声。 「希望?まだ起きてたんだ」 「あ…うん。おかえり」 「ただいま。この箱の山はなに?」 「そ、それは…片付け中、なの」 涙で濡れた瞼を擦り、思い付いたまま言い訳してみる。本を読み終えた今、ここから出て行こうという気持ちは私の中から消え去っていた。 「そっか。出て行くのかと思って焦った」 その言葉に内心ギクリとした。 誤魔化すように時計を見上げてみれば、二本の針はてっぺんで交わり合い、ちょうど0時を指したところだった。 そんなにも長い間この本を読んでいたのかと静かに驚いていたとき。 「でも起きてて良かった。誕生日おめでとう」 ほんのり感じる香りと共に後ろから差し出されたのは紫、ピンク、白の三色で作られた花束だった。 「わ…センニチコウ…」 コロンとした見た目が可愛いセンニチコウは私が一番好きな花だ。 差し出されたそれを受け取ると、自分が今どんな顔をしているのかも忘れ、嬉しさのあまり後ろを振り返ってしまった。
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