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国分 文一郎≪こくぶ ぶんいちろう≫は、朝日が昇るのと同時に目が覚めた。
大きく伸びをして布団から出る。身支度は、いつもどおり適当に済ませた。髪の撥ね付けを玄関の鏡で最終確認をしたあと、今日も日課にしている散歩に行く。
家を出て、国道11号線を北に突っ切る。朝早く出歩いているのは、大抵自分と同じか年上の人たちだ。仲間意識から自然と挨拶が出る。
数十分後、住宅街の細い道路と旧国道が交わる道路が見える。
押しボタン信号を渡れば、住宅街へと入る道路わきに参道がひっそりと現れる。住宅に挟まれている参道は、町との繋がりが深いことを教えてくれる。
今は、少しくたびれてきたが、此処は、昔から変わらない人々の憩いの場である。
参道を通り抜けると広場に繋がる階段がそびえ立つ。
文一郎は、毎日の事ながら息を整え挑むも、すぐに息が上がってくるのを心臓の鼓動で感じる。必ず一度は、登りきる前で、たまらず足を止め、気晴らしに上体を起こす。
見上げると桜で出来た天井が文一郎の心を踊らした。
階段の左手側に植えられている桜は、ソメイヨシノだ。時々、ヒラヒラと花弁を散らして階段を登る人間を鼓舞しているようだ。右手側の山茶花と金木犀は、濃い緑の葉を茂らせて桜の鮮やかさを際だたたせている。
右手側の山茶花と金木犀は奥に見える小さな墓地を隠すために植えられたものだろう。だが、生け垣が上手く影を作ってくれていて、涼しさを演出している。常に日影のそこは、いつだってひんやりとして汗をひかせてくれる。
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