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こんな悩みを持てるのも退職してからだと、つい二週間前にゴルフ仲間に言われたことを文一郎は、思い出す。
平日で空いているゴルフ場のコースが合わせて脳内に広がる。
ガランとしたゴルフ場は、伸び伸びと打てて贅沢な気分だったが、自分が社会人として、第一線を退いたことがつくづく身に染みるものだった。
とはいえ、文一郎は、自分がまだ若いつもりでいる。高齢者という肩書きも不本意に思っているくらいだ。
齢六十五になると定年退職する会社員は、たちまち、ただの高齢者になる。文一郎も長年勤めてきた会社を辞めると漏れ無くただの高齢者になった。しかしながら、いざ辞めると途端に高齢という言葉が重くのし掛かる。
それを振り払おうと散歩やらゴルフやら、日曜大工やらと忙しくしてみせている。
しかし、どれも何故かしっくり来ない。
(畑仕事に手を出して居ないのは最後の砦か、でなければ足掻きやな。日曜大工もかさ張るし、お金も掛かるんだよな)
内心は、永遠とも思える暇をもて余している。そういった素振りは、人に見せなかった。
(やっぱり畑かな……)
なんて差し迫った老後の過ごし方を考えているうちに、文一郎が本殿のある頂上までついたようだ。最後の一段を登り切る。
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