コーヒーとココア

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 千種は駅の中に戻り、手近な自動販売機の前に立つ。気温が上がってきたからか、自動販売機の中のホットドリンクの数はちょっとずつ減ってきている。  どれにしようか。一本指を右往左往。好みなんてわかるわけないんだからどれでもいいかなんて身もふたもない結論に至り、指が添えてあったボタンをひと思いに押す。転がり出てきたのは、ホットの缶コーヒー。シンプルイズベスト。取り出すとけっこう熱くて、制服のポケットにねじ込んだ。  ついでに自分の分のココアも買って、もとの場所に戻る。植え込みの縁に座り、自分の隣に缶コーヒーを置く。熱くてずっとは持っていられない。鞄からタオルハンカチを出して、それにくるんで持つ。 (よし)  心の準備はできた。あとは体の準備だけだ。  都会でなくすのが怖くて、いつもは制服のポケットにしまっていたが、今日だけは鞄にしまっていたスマートフォンを取り出す。画面はまったくいじらず、真っ暗なまま、耳に当てた。  そうして、顔を隣に向ける。植え込みのすぐ側にぼけっと突っ立つ、紺色のチェック柄マフラーの人。彼はそれに口元を埋めるようにして、ただひたすら、駅だけを見つめ続けている。     
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