伝承談議の午後

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   大理石の廊下を進んでいく。一般教室ゾーンを抜けてここからは諸々の研究をする部屋が多くなってくる。  「ふぅ・・・一体何を書けばいいのやら」  まさかこの世界でも宿題をさせられるはめになるとは思わなかった。  「古の伝承における考察とは一体なんのことなのか」  この世界に召還されてから2年が過ぎた。考える猶予もなく状況に流された結果、今ここにいるわけなんだが。知恵と殺戮を司る神リテーズを信仰する灰色神殿に強制的に入信させられてから色々な事があった、今は神官を目指す従者クラスで修行な雑務をこなす日々。いまだにこの世界の標準や価値観に慣れることができない。  「先輩に聞いてみるか」  先輩とは狂気の魔女と言われている神殿で5指には入る才媛のルーティア先輩のことだ。途中編入組だが従者クラスから最速で神官見習いに昇格している。  「今日もここにいるだろう」  ここは部外者は立ち入れない部屋だ。もちろん研究などしたこともないが先輩の従者となっているため自由に入室して怒られることはない。神官見習いでも従者を指名できる。従者も応じてもいいし断っても良い。形骸化している割と自由な掟なので使用する人もそれほどいない。実験助手みたいな役目だろうか。  コンコン!  「入りますよ」  一応声を掛けて入る。やっぱりいつもの定位置で何やら熱心に眺めている。黙ってじっとしていれば黒髪の美女なんだけど。  「先輩今度は何を見ているんですか?」  指輪のようだが。  「これか?まだわからないよ」  「また怪しげなマジックアイテムですか」  先輩は商家の実家から送られてくる効果不明のマジックアイテムを調べることを趣味としている。  「この指輪の着用者は様々な理由で短命になってしまうらしいんだが、呪詛の魔法効果はないみたいだし色々調べていたんだよ」  「はぁ・・・そんな呪われた指輪の鑑定なんてやめたほうがいいんじゃないですか?」  そんな物騒なものを近くに置かないで欲しい。
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