4月4週目

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「俺は最初から知ってるのに、何も言わないのは卑怯だね。――生島、今の俺の中身は、33歳なんだ」  環菜の心臓がまたドクン、と強く鳴った。 「……! 33歳!」 「しっ! 声でかいって!」 「あ、ごめん」  環菜は咳ばらいをした。 「ええと……33歳って言った?」 「言った」  飯田はしっかりとうなずいた。 「つまり、お前と野沢と同じなんだ」 「璃子のことも知ってるの?」 「まあ。俺は、俺以外の2人のことも最初から聞かされてたから」 「……ノブモト?」  環菜は尋ねた。 「俺はノブモトじゃない。クニモトって奴だ」 「また、変な名前だな」  環菜はがっかりした表情を浮かべた。 「――いつから?」 「俺は春休みからだ。2人は……学力テストあたりか?」 「学力テスト初日に変わりました」  環菜は長い長いため息とともに言った。 「ああ……それはうん、お疲れ。――俺は、2人がいつ変わるのかまでは知らなかったから」 「すぐ……わかった?」  環菜はおそるおそる聞いてみた。 「それはそれはとてもわかりやすかった」 「えええっ!」  環菜は頭を抱えた。 「やっぱりうまくやれてなかったのかなあ」 「いや、確かに不自然ではあるけど、俺だからわかっただけで、他から見たらただの変な奴にしか見えないよ」 「それ、あんまフォローになってない」  環菜は大きくため息をついた。 「……少し、落ち着いた?」 と飯田は尋ねた。 「少し……ね」  環菜はふうっと息を吐いた。 「そう……もう1人の被験者って飯田だったんだ」 「自分たちの他にいることは知ってたんだ」 「うん、でもそれが誰かは教えてくれなかった。理由も」 「ふうん……そう」  飯田は小さくつぶやいた。 「――璃子が戻ってきたら教えてやんなきゃ」 「生島から言ってやった方が、驚かなくてすむかも」 「そうだね」  ちょうどタイミングよく、璃子がトイレから戻ってきた。 「あっ! 璃子、璃子!」  環菜は璃子に向かって猛突進していった。  璃子は環菜の勢いに驚いて、思わず逃げ出してしまった……。 「駅構内で走り回るな、おい!」  飯田は環菜の背中に向かって叫んだのだった。 →→NEXT:5月1週目
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