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・帰宅
すっかり暗くなった駅のホーム。
階段を上がって、改札口に向かう。
かばんから定期券を出してタッチすると同時に、くしゃみが出た。
――何も、主人公が花粉症だって描写から始まらなくても……。
生島環菜は、心の中でそう思いながら目をこすった。痛い。
改札を抜けると、北口と南口に階段が分かれている。環菜は自宅に帰るため、北口へ続く階段を降り始めた。
「……あ」
電車を降りるまでは、南口から行くスーパーに寄って行こうと思っていたのだ。
それが、先ほどのくしゃみで一気に忘れてしまった。
環菜はくるりと体の向きを変えて、降りていた階段をさっさと上り出した。周囲の不思議そうな視線が、ちょっと痛かった……。
スーパーは南口を出て、5分ほど歩いたところにある。
時刻は夜9時近くになるが、ここのスーパーは10時までやっているので仕事帰りに寄りたい人にとってはありがたい。
最近ではこの手は当たり前で、24時間営業なんてところも出ているようだ。
――まあ、でも働く方からしたら大変だよね……。
環菜自身は中小企業の事務職なので、深夜まで働くということはまずない。だが、定時に帰れるかと言ったら、そうでもない。
今日も予定外の業務が次から次へと舞い込んできて、元々やるはずだったことが終わらず、少し残業してきた。
忙しかった年度末を越えたものの、落ち着くのはもう少しかかりそうである。
環菜はスーパーに入ると、かごを取った。
「ご飯どうしようかな……」
今日は金曜で明日は休みだ。ゆっくりビールでも飲もうか。
環菜はスーパーをぐるっと一回りして、おつまみの材料と、明日の朝ご飯の材料を買っていった。
本当は野菜も買いたかったが、閉店時間1時間前の野菜コーナーにほとんど物はない。それはあきらめて明日買うことにした。
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