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璃子はトイレに走っていき、環菜と飯田は壁際に並んで寄りかかって、璃子を待つことにした。
「もうすぐ10時か」
腕時計を見て、飯田がそう言った。
「結構遅くなっちゃったね」
「な」
「……」
「……」
「宇野のやつ、最初カラオケ行こうとか言ってたのにな」
と飯田が言った。
「そんなこと言ってたの?」
飯田はうん、とうなずいた。
「でも、飯食ったら眠くなったとか言い出して」
「何だ、そりゃ」
環菜もふふっと笑いながら、心の中ではカラオケって夜10時以降は、未成年入れなかったんじゃなかったっけ、などと考えていた。
「――行く?」
と飯田が言った。
「え、今から行くの?」
「うそうそ」
「嘘はよくないと思いまーす」
「ん、いや、俺も正直眠いや。結構疲れた」
「カラオケ行くんなら、最高のコンディションで行きたい」
環菜は力強く言った。
「わかる、それ」
「今行っても、すぐボロボロになりそう」
そう言いながら、環菜は喉のあたりをさすった。
「だったら家帰ってのんびりしてた方がいいよな」
「帰ったら何しようかな」
「風呂入ったら、一杯くらいやってもいいかも」
「私も飲もう! 冷蔵庫にまだ何本か冷えたのが入ってるはず」
「――やっぱりな」
環菜の全身が一気に冷えた心地がした。
「……え」
環菜はあわてて口を押えたが、もう遅い。
そろそろと飯田の顔をうかがった。飯田は少し面白がっているような顔をしていた。
「冷蔵庫に何が入ってるって?」
と飯田は言った。
「あ、あの、コーヒー牛乳が入ってて……」
「生島、今いくつなの?」
「変なこと聞くんだね。18に決まってんじゃん」
「今、18?」
「そうだよ」
「生島、誕生日まだじゃなかったっけ?」
「……! あ……そう、そういう意味ね、うん。今年で、かと思っちゃったよ、失礼……」
飯田は環菜の目をじいっと見ている。
全てが見透かされそうな気がして、環菜の鼓動の速度と強さは増すばかりだった。
突然、飯田がふっと、笑い出した。
「ごめん、意地悪なことして」
「?」
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