前提

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前提

 先生と武内が言っていた「足りないもの」の答えが出ないまま迎えた土曜日の夜。僕は調整ルームでぼんやりとテレビの画面を眺めていた。弥生賞のレースビデオだ。  弥生賞の勝ち馬はレインソルジャー。4コーナーで2番手だったところを力強く抜け出していき、そのまま310mの中山競馬場の坂を押し切るという強い内容だ。一方の僕が乗っていたポコちゃんは馬群の内側で揉まれて道をこじあけることができずに後方のままで終えるレース。今見ても無様な騎乗だった。前を走る芦毛の馬・ホワイトパンケーキに進路をカットされる不利を受けたとはいえ、そこから全く持ち直せなかった。何より馬のコーナリングがスムーズさを欠いていた。  次に見たのは皐月賞のビデオ。2番手で競馬をして直線で抜け出したレインソルジャーを3番手でレースを進めていたスターエクスプレスが馬場の外目から猛追。最後はマッチレースになりわずかアタマ差でスターエクスプレスが勝利をもぎ取った。  一方の僕は弥生賞のときよりもっと酷いレースをしている。前回の反省から僕は中段からやや前でレースをしようと試みた僕。ところが前に行ったときにポコちゃんがムキになってしまって暴走しかけたのである。僕は必死になって手綱を抑えようとするがそれも逆効果。終始チグハグな、ギクシャクした競馬。まるで僕とポコちゃんがケンカしっぱなしのままレースを終えたような感じだった。  やっぱり僕が下手だからダメなんだ。  そんな想いが脳裏をよぎった。
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