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「失礼って?」
眉間にシワがよるのを僕は肌で感じていた。それを見て取ったのか、武内は右手の人差し指をピンと立てた。
「お前の中では自分の実力が無いことを謙虚に受け止めているつもりかもしれないけどな。逆の立場に立って考えたことあるのかよ?」
「逆の立場?何だよそれ」
僕は武内にそう訊き返す。
「だからさぁ、大河原先生の立場で考えてみろよ」
「手塩にかけてそだて育てた弟子に一華咲かせて欲しいという気持ちだろ?そのくらいは……」
「違ぇよ。そんな情に流される先生だったらあんな実績残せる訳ないだろ」
武内は呆れた表情でそう言い放つが、僕にはさっぱり見当がつかない。
「どんなベテランジョッキーを乗せるよりも、海外の腕の立つジョッキーを乗せるよりも、オマエを乗せるのが一番勝ちやすいと思った。シンプルにそれだけのはずだ。それともお前は名伯楽の判断を全否定するつもりか?そんなのは謙虚とは言わない。むしろ傲慢だ」
「でも……」
「いいか?ダービーは馬主、調教師、騎手、誰もが欲しいタイトルだ。大河原先生だって勿論そうだ。そのために大河原先生が変な妥協をすると思うか?馬主さんを説得するのだって大変だよ。その手間までかけてまでお前を乗せる意味、考えろよ」
武内の言葉に僕は黙り込んでしまった。
「今回お前に一番足りないのは……」
「足りないのは?」
「……まぁいい。自分でしっかり考えることだ」
武内はそう言って自室へと戻っていった。
先生からも武内からも言われた一番足りないもの。一体何なんだろう?
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