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「あー……余計なこと言っちゃったな……」
長いこと待っているのになかなか返ってこない返信に、僕の心は不安で埋め尽くされる。さっき自分が送ったメッセージを何度も読み直すと、後悔の波が押し寄せてくる。一向に変化する気配の無いスマホの画面を睨みつけても、何も起こりやしない。
色んな感情がごっちゃになって、叫び出したくなる衝動を枕にぶつける。意味を持たない呻き声とともに足をバタつかせていると、足元にあったクッションが情けない音を立てて落ちた。
「お兄ちゃんうるさい!」
隣の部屋から妹の怒鳴り声と勢いよく壁を殴る音が響き、足を止めて脱力する。
「……死にたい」
僕がこうなっている原因は、先程送信したメッセージ。送信先は、僕が密かに想いを寄せている女の子。やたらと理由をつけては話しかけたり、こうしてメッセージを送ったりしているわけだが……。
自分 『大野さんって、好きな人いるの?』
調子に乗って踏み込みすぎてしまったのかもしれない。話が盛り上がったことが嬉しくて、変に勢いづいてしまった。もちろん、いつかは聞こうと思っていた。自然な流れで、なんとなく聞いただけみたいな感じを予定していたし、それなら何の問題もないんだ。それなのに……。
よせばいいのに、僕は恐る恐る画面をスクロールさせる。
大野 『私も、思わず吹き出しちゃうところだった(笑)』
自分 『わかる!あの髪型はヤバかった!』
『そういえばさ』
『大野さんって、好きな人いるの?』
ヤバいのはお前だよ。どういう流れだ、おい。
今日のメッセージを送りつける口実は、初老の数学の先生の髪型がおかしかったという報告。大義名分にするには弱すぎる。この時点でもう好意がバレバレな気がしてきた。
でも、そんなくだらない話題にも彼女は付き合ってくれて、笑って(文面で(笑)だけど)同意してくれる。思い返せば、初めて好きになったきっかけもこういうやりとりだった気がする。
やはり最後の二文を取り消そうかとも思ったが、既読はすでに付いていて、けれど反応はないままで……今更取り消すのもなんだかおかしい気がする。
……いやいや、ただ気になっただけって言えば、全然問題ない。軽いテンションでいこう。よし、こんな感じで……。
『ちょっと気になっただけだよ~☆彡.。気にしないで(ノ´▽`)ノ♪』
って、なんか違う!! 僕こんなキャラじゃない!!
また奇声を上げて足をバタつかせると、スマホが呑気な通知音を出した。落としそうになりながらも、慌てて画面を見る。
『お兄ちゃんうるさい』
「……」
そこに示されていたのは隣室の妹のメッセージ。
無言でスマホを持つ手を大きく振りかぶる。ちょうどその時、再び手に持ったスマホが軽快な音とともに振動した。うんざりしながら、また画面に視線を戻して、目を見開いた。
大野 『なんで?』
差出人は大野さん。
なんで? なんでそんなことを聞くのかって?
……理由なんて言えるわけがない。簡単に言えたらどれだけ楽なことだろう。こんなに苦しい思いをしなくてすむのならどれだけ良かったことだろう。
わけも分からず勝手に膨らんでいく気持ちを心の中で圧縮して、隅に追いやって、何気ない風を装って……気づいたら抑えられなくなっていた。
……なんてこと、書けるわけがない。
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