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翌朝、僕は教室の机に突っ伏していた。思い出すのは昨夜と今朝のこと。昨夜はあのまま返事ができないまま、いつの間にか眠っていた。
それに気づいたのが今朝のこと。若干の寝坊も相まって、時計の針と競争しながら登校準備。苦し紛れの返信は『ごめん。寝落ちしてた』とだけ……。
「あーー……」
そっけなさすぎた? いや、そもそも、大野さんには他に好きな人がいるわけだし……。
「わっかんねえー」
「うわ、びっくりした」
がばっと起き上がると、目の前には驚いた顔をした中谷がいた。ちょうど僕に声をかけようとしていたようだ。サッカー部の朝練を終えた後のようで、制汗剤の柑橘系の匂いが鼻孔をくすぐる。
「わかんねえって何が? 数学の課題?」
中谷は、どかりと僕の前の席に腰を下ろして尋ねてくる。
「いや……人生?」
「ふーん……じゃあ、数学の課題見せて」
「……そっちもわかんねえ」
「まずはそっちから考えなさい」
中谷はそう言いつつも、スラスラと問題を解いていく。こいつは元々僕には期待していないだろうし、そもそも勉強ができるやつだ。おまけにサッカー部でもレギュラーで、さらに重要なことはイケメンだということ。
……やっぱり、大野さんの好きな人って中谷なのでは? いや、でも友達の友達って言ってたから違うのか?
「あーわかんねえー」
また机に突っ伏して呻き声をあげていると、聞き慣れた声、正しく言えば、いつも探している声が、教室の入り口の方から聞こえた。
「あ、愛しの大野が来たぞ」
わかってるよ。心の中でそう呟く。遠くから聞こえた声だけで反応するなんて、ご主人様に忠実な犬みたいで恥ずかしいんだよ。
昨日のこと、どう思ってるんだろう。なんとも思っていないといいな……それはそれで複雑だな。なんてことを考えながら、少しだけ顔を上げる。彼女はもう自分の席に着いて友達と談笑していた。ただそれだけなのに、僕の視界の中では、まるでスポットライトが当てられているみたいに彼女だけが輝いている。いつからか、僕の視界は特別仕様になってしまったようだ。
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