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季節は11月も半ば、一日一日と冷たい風が体を包んでいく。今日は、朝から降り続く雨によって、一段と冷え込んだ。夜にかけて雨足も強まっている。
濡れそぼったままいつまでも植え込みに腰掛けているのは、流石にもう堪える季節というものだ。しかも青年はなぜか季節に似合わぬ薄着である。
彼はシャツの裾を強く握りしめながら、帰る家がないといった。睦月の口から、睦月も予期せぬ言葉が滑り出た。
「では、うちにきますか」
伏せられていた瞳が勢いよく睦月を捉えた。見開かれたそれは、ぱち、ぱち、と音が鳴りそうな具合で二度瞬きをする。
「いや、えっと、それは悪いです。あなたにもご家族がおありでしょう」
「あいにくわたしは独り身でしてね、部屋が余っているくらいなんですよ」
睦月の言葉に、青年は指先で顎を摘んだ。決めかねているようなので、もう一押し声をかける。
「とって食ったりはしませんから。ほんの雨宿りのつもりできてくださいな」
「おじゃまでないのなら」
思考を重ねた後、彼はそう言って目を細めた。触れたら消えてしまいそうな笑みに、睦月はどこか懐かしさを感じた。
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