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睦月は、ドリップを始めたときに香り立つ、あの瞬間が好きだった。つぼみが開くように、蒸らされた豆はコーヒーのにおいをはじけさせ、心地よく鼻孔をくすぐる。
熱い湯をそそぐとぶくぶくと泡が立つ。ドリッパーを通して、白いカップに線となり落ちてゆく。
「とても、良い香りがします」
「君も、飲むかい?」
「はい、ですが僕は…」
目を細めていた清は、もじもじと身を捩った。
ああ、と睦月は声を漏らす。
「ブラックが、苦手なのだね?」
青年は、小さくうなずいた。
「ふっ…そんなに恥ずかしがらずとも、ミルクと砂糖を入れたらいい」
「む、むかし友に笑われたのですよ」
清は少しむっとしたようすでイスに腰掛けた。
そのようすが愛らしくて、笑ってはいけないと思いつつも喉の奥でくっくっくと音がなるものをかみ殺せない。
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