1.雨やどり

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1.雨やどり

「帰る家がないのです」  精巧なガラス細工を思わせる容貌をした、青年の長い睫が伏せられた。その先からは雫が一滴こぼれ落ちる。涙ではない、無数に降り注ぐ雨だ。  志賀睦月シガムツキは、傘を差しだしたまま思案した。これは先ほど、青年と会話をするきっかけになったものである。  青年は、頭上の雨が突然止んだことに驚き、顔をあげた。今度は睦月が驚くことになった。青年の瞳は、透き通るビー玉のような青い色をしている。吸い込まれそうな海に言葉を失っていると、その小さな口が「あの…」と開いた。睦月は、はっとして我に返る。 「傘を、差し上げます」  青年が慌てたように小さな頭を振った。 「それはいけない。あなたが濡れてしまいます」 「なに、わたしの家はすぐそこですから。それよりも早く家に帰らなければ、風邪を引いてしまいますよ」
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