君を

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2時間揺られて、私は電車を降りました。 木造で、小さい昔ながらの駅に着きました。 古びたその駅はこの町の温かさを象徴しているようでした。 駅の前のバス停で、1番初めに来たバスに乗りました。 乗客は3、4人。 工事中の広い敷地、人気のない公民館、ブランコだけが寂しそうに取り残された公園を通り過ぎ、大きな通りまで出ました。 奥には青い海が見えました。 すると、コンクリートの大きな建物が見えてきて慌てて降車ボタンを押しました。 バスを降りたところには、広い海を前に立つ、町で1番大きな体育館がありました。 静かな町中に立つその大きな建物の中には県中から多くの高校生が集まっていました。 そこは賑やかで、建物の中だけ違う街のようでした。 そこは、君の高校最後の試合が行われる会場でした。 大勢の人の波に流されるように、私は建物の中に入って行きました。 中まで人はいっぱいで、熱気で汗が出てきました。 来ていることが、来てしまったことがバレないように、慌ててマスクを着けました。 それだけでは不安で、持っていたマフラーで口元を隠しました。 彼とお揃いの、紺色のマフラーでした。 ギャラリーは薄暗くて、コートだけが白い光でよく照らされていました。 試合をする君の姿がよく見える場所を探しました。 だけど、誰かに見られたらすぐ逃げられるように一番後ろの列の席に座りました。 そして、君の学校の応援席にいるはずの、君の彼女を探しました。 いつか写真で見た、髪が長くて笑顔が印象的な女の子を探しました。 見つけても目が合わないように、慎重に、慎重に。 薄暗い中で、話したこともない人を見つけるのは大変でした。 結局、最後まで見つけることはできませんでした。 もしかしたら、君との約束を破って来なかったのではないかと、少し期待してしまいました。 いや、そうであってほしいと願って意図的に見つけないようにしていたのかもしれません。
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