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窓一つ無い廊下の中に自分の足音が大袈裟なくらい響く。
別にわざと足音を立てているのではない、革靴と廊下が自然と奏でる一定のリズムが続く中心にいる少年は目的の部屋の前に到着し、ノックもなくドアノブを捻って押し開ける。
足音しかなかった静寂な廊下。
だがドアを開けた途端に静寂は吹き飛ばされてしまう。
部屋の中で炸裂した激突音。あとは空気の振動と魔力の余波が開かれた出口を我先にと飛び出していったからだ。
自分の体に当たるそれらをしかし無視する。わかっていたからこそであり、いつものことなので気にも止めずに部屋の中へ踏み込んだ。
「おい~っす」
「あっ、隊長」
覇気のない気だるげな挨拶に反応したのは中学生くらいの少年だった。壁にもたれながらしゃがみ込んでいた長い黒髪を七三分けにした中性的な顔立ちの少年に隊長と呼ばれた少年は頭を掻きながら欠伸をし、
「よー辰己。元気か~」
「相変わらず呑気ですね」
「シリアスな顔はシリアスな場面に取っておくもんだ。切り替えは大事だからな」
滝登 辰己(たきのぼりたつみ)に手をプラプラと振って返す。そんな会話をしている間にも魔力の激突は続いていた。
何もないだだっ広いここはトレーニングルーム。魔術師が自分を鍛えるために提供された魔術を自由に扱える特別な空間だ。
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