286人が本棚に入れています
本棚に追加
肩を掴んで泣き付いてくる隼。うんざり顔でルーム中央に目を向けると、拳は巨躯を弾ませこちらを凝視していた。まるで闘牛のよう。そして視線の先にいる自分は闘牛士のようである。
「ちょうどいいぜ、隼は遠い場所から魔術ブッ放してくるだけでいまいち燃えなかったんだ―――隊長相手なら燃えるぜェ!!」
「さっきから燃えてただろお前は」
岩の塊みたいな両拳をトレーニングルームの床に叩きつけるとルーム全体にまで震動が伝わった。あちらは完全にやる気になってしまっていて、隣にいる隼にはもうやる気がない様子。
「僕がやりましょうか?」
「そうなったら余計に燃えちまうだろ。………ハァ、仕方ないな」
左の胸元に右手の指を押し当てる。直後に美しい銀色の光が噴き出し、少年は光を掴んで引き抜く。
形となったそれは白銀に煌めく両刃剣。シンプルな形状をしたそれを持って歩み出し、拳も頭を先頭に駆け出してきた。巨大に見合わない速度で迫る大男を見据え、相変わらずめんどくさそうな顔のまま剣先を僅かに後ろに向け、
「―――よっ、と」
たった一歩で爆発的な加速を叩き出し、拳とすれ違う。
拳はまだ攻撃体勢に入ったまま。その状態の彼とすれ違った時には白銀の剣は真上に掲げられていた。
「うっ…お!?」
拳の強化術が"無理矢理解除され"、目を見開いている間に少年は拳の頭上に跳び上がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!