ひさしぶりだね

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「おもしろい?」  女の子が聞いてきた。 「まあ」  と、こたえる。ふかくは考えなかった。 「……そう」  女の子は、ぼくの顔をじっと見ている。 「まあ、というのは」  と、女の子は右手の人さしゆびをかるく下くちびるにあてた。 「まあまあ、ということ? とくに、どうということはない? どうでもいい?」  女の子の目がぼくをとらえる。――そのひとみは、はい色に見えた。  えっ、と思った時には、女の子のひとみは茶黒だった。  気のせい――だったの、かな? なんだかふあんになる。のどがつかえる。 「あ、いや。まだ半分も読んでないから。だから、まぁ……」 「まあ?」  と、首をかたむける女の子。ぼくはむりに声を出しているのに、女の子はなんだかぐいぐいくる。 「おもしろい。まあ、おもしろいんじゃないかな、なんて」 「そう」  女の子は、どうやらなっとくしたみたいで。うなずいて、少しだけ、わらった。 「ねぇ、きみってさ」  そう言って、女の子がぼくを見つめる。 「えっ? なに?」 「ううん、なんでも。なんでもないよ」  女の子は小さくわらった。  いやなわらい方じゃなかったけど、からかわれたような気分になった。 「……えぇと。続きを読んでもいいかな?」 「どうぞ」  と、女の子。 「それじゃ」  と、ぼくは、えみのようなものをつくった。せいいっぱいだった。  本に目をうつす。  ……。  思い切って顔を上げると、女の子がぼくを見ていた。ずっと見られていたみたいだ。 「本、読みたいんだけど」 「どうぞ」  女の子がわらって見せた。 「いや。見られたままだと、読みづらいから」 「そう」  言って、女の子はなだめるよう、ぼくに手のひらをむけてうなずいた。 「いいことを教えてあげる」  女の子は、とくいそうに人さしゆびを立ててふった。 「そういうのはね。集中していれば、気にならないものなのよ」 「なんだよ、それ。いや、そうかもしれないけど」  そう口にして、しせんを感じた。目をむけると、西野さんがまたけげんな顔をしてぼくを見ていた。
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