ひさしぶりだね

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 女の子は、父さんにならってナスのしゅうかくをてつだっているようだった。 「ふぅん」  ま、いいけど。ぼくをつけてきた、とかじゃないならね。  気にしてもしかたない。ぼくは自分のやるべきことをやるんだ。先をわった青竹で、よくうれたカキがついたえだをからめおった。ちょろちょろっと三十コばかりのカキをちぎる。  居間。たたみにすわるぼく。目の前には、カキをもったさら。  地めんにおとしてわってしまったカキを、母さんにむいてもらったのだ。へましたぶんを、自分のはらにおさめる――そういうことだ。  カキを食べるついでというわけじゃないけれど、図書室でかりてきた本を読む。  『森にあるもの森とあるもの』は、森のようせいや、大地のようせいが出てくる話だった。 「おっ。本を読んでいるのか。めずらしいな」  畑からもどった父さんが、土間から上がってきた。 「べつに、めずらしくはないよ。図書室で本をかりてきたから、フツーに読んでいるだけ」  そんなに多くは読まないかもしれないけれど。めずらしい、だなんて言われるほどじゃないよ、うん。 「そうか。学校でかりてきたのか」  と、父さんはにやけてうなずいた。なんだか、うれしそうだった。 「ねぇっ。さっき、畑でさ。その……女の子といたでしょ?」  やっぱり、聞かずにはいられない。 「ああ、いたよ。ナスのしゅうかくをてつだってもらったんだ」 「あの子、だれ?」 「さぁて。名前は聞かなかったな。このあたりに、ひさしぶりにあそびにきたって言っていたよ」 「そうなんだ」  あそびに、ね。 「せっかくだから、ナスを少し持って帰ってもらおうと思ったんだけどね。えんりょされちゃったよ」  と、父さんは頭をかいてわらった。 「ま、ナスじゃね。ちょっと弱いかも」 「……直太は、カキをちぎったのか」  父さんは、ぼくの前におかれたカキのさらを見た。さらにはまだ、カキが半分ぐらいのこっている。 「あまかったか?」 「うん。さとうがしみ出てくるんじゃないか、っていうぐらい」  これは、まったく大げさじゃない。ぼくがおっことしたいがいはバッチリだった。 「そうかぁ。……十ばかり下げて持ってきてくれればよかったのに。カキだったら、ちがうへんじを聞けたのかもしれないね」  と、父さんはふくろを下げるまねをした。
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