ひさしぶりだね

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「あぁ……。そこまで気が回らなかった」  よくわからない女の子だったし。こわかったし。 「あの子はもうこないかもしれないけど。今度、だれかがきた時にはちょうせんしてみてくれよ」 「うん。きかいがあったらね」  と、言っておく。  家にカキの木がある人にカキをあげてもめいわくになりがちだから、気をつけないといけないんだよね。……あの子のところは、どうだったのかな。気にしてもしかたないけど。 「ところで、どんな本を読んでいるんだ?」 「う~ん。『森にあるもの森とあるもの』という童話だよ」 「えぇっ」  と、父さんがのぞきこんできた。 「どうかしたの?」 「ひさしぶりに聞いたタイトルだな、と思ってね。父さんも、小学生のころ、その本かりたよ」 「そうなの?」  ちょっとおどろいた。 「ひょっとして、本そのものが同じだったりするのかな。……おわりの方に、だれかのらくがきがあってね、父さんがけしごむでけしたおぼえがあるな。一度は、そのままへんきゃくしたんだけれど、気になって、もう一度かりてけしたんだ」 「そうなんだ……」  めくってみると、たしかにおわりの方にらくがきをけしごむでけしたようなあとがある。 「ああ、そこそこ。やっぱり、同じ本なんだな」 「へぇっ」  父さんが小学生のころにかりた本を、ぼくもかりて帰るだなんて。なんだか、へんな感じ。 「二十年いじょう後に、ふたたびうちにくるなんてね」  わらった父さんは、ふとまじめな顔になった。 「あぁ、そうか。そういうことか。なるほど」  父さんは、ゆったりうなずいた。 「なにが、なるほどなの?」  たずねたけれど、父さんはやんわりとしたえみをうかべるばかりだった。 「ひさしぶり、か。そうだね、ひさしぶりだね」  父さんはかがんで、小学生のころの自分がけしごむでけしたあとをゆびでなぞった。
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