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「で、この月光菩薩の資料がこれなんだけど、どうかなこの文章。なるべく偏らないように書いたつもりだけど」
僕の心はさっきからせわしなく動き回っていた。彼女は僕と関わるのが嫌だと確かに言っていたじゃないか。なら極力話しかけなければいいのに。
「ま、いいんじゃね?」
「いいんじゃね、ってさっきからそればっかりじゃん。ちゃんと読んでよ」
それしか言えないのだ。何を言い出すかわからないからやっとその言葉を絞り出してる。
「……おっかしいよ最近の尾形君。つき合い悪いし、みょーにぶっきらぼうっていうか……」
覚悟を決めた。そして彼女にありったけの勇気を振り絞って僕は言った。
「だって学食で言ってたじゃん。おれといっしょにいるの嫌だって」
「嫌じゃないよ……」
呟くように言った彼女の顔つきは神妙だった。
「だって言ってたじゃん。学科の女の子同士で。学食で」
なんだかわがまま言ってむずがってる子供みたいだ。
「ちがうよ、あれは……」
取り乱しながら、彼女は笑顔で取り繕っていた。その笑顔がなんというかいわゆる僕の自尊心というやつを逆撫でした。
「笑うなよ、人がこんなに傷ついてんのに」
「なに女の子みたいなこと言ってんの?」
「笑うなよ」
言うたびに顔が徐々にいたずらっぽい笑顔に変わり、彼女は思わずふきだした。
「笑うな」
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