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女の背中には翼があった。
茶と黒が混じり合った猛禽の翼。広げれば小さな小屋一軒分はあるだろう。女は飛ぶことができたが、鳥のように自在に風を捉え、降りたいところに降りることはできなかった。しかし女はその翼には必ず何かの役割があると思っていた。それを矜持と呼ぶべきか自惚れと呼ぶべきかは定かではない。
その日も女は翼を広げて思うがままに飛ぼうと躍起になっていた。何度も翼をはためかせて思うところに降りようとしている。しかし飛ぶのもやっとなら降りるところも見当違いだった。
気がつくと西の空は上品な着物の柄のように淡い緋と青、そして白の濃淡が溶けあいながら遠くまで広がっている。一時女はその美しい情景に見入っていた。
すると笑い声とともに数人のゆっくりとした足音が近づいてくる。村の若い男たちだ。彼らがその姿を認めると素っ頓狂な声をあげて女を指さした。女はただ立ちすくんでいる。男の一人が目くばせすると皆が女に襲いかかってきた。女は逃れようと金切れ声をあげて足掻いた。男たちはその様を見るとさらに喜びの声をあげて力任せに女をねじ伏せた。
いったいどれくらいの時が経ったろうか。気がつくと女は体をあざだらけにされて伏せっていた。口の中は血の味がする。
男たちは焚き火をして酒を楽しんでいた。女はなんとか立ち上がり、その場を離れようとした。男たちはおもちゃに飽きた猫のように女に一瞥を投げると、今度は酒宴に夢中になっている。
やがて男の一人がなにかの異変に気づいた。
人間のうめき声と叫び声が入り混じったような声。声は黒い霧状のものとともに近づいてくる。
男たちは示し合わせる間もなく各々一目散に逃げ去った。女も力の限り逃げたが黒い霧に飲み込まれてしまった。
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