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 美織の心中を察する気配もなく、明日香は楽しそうに質問を続けてきた。 「滝沢先生とかはどうですか?」 「滝沢先生? どうして滝沢先生がでてくるのよ」  明日香は意味ありげに笑みを浮かべ、半歩分距離を詰めてきた。 「だって、どうみても滝沢先生は美織先生のことが好きじゃないですか」 「好き? 滝沢先生が私のことを?」 「気づいてないんですか? あんなにあからさまにアプローチしてきているのに」 「確かに頻繁に話かけてくるけど、それは明日香ちゃんに対しても同じでしょ」 「目が違いますよ」  明日香は首を横に振りながら言った。 「私に話かけるときの目と、美織先生に話しかけるときの目は別物です。ガラス玉と真珠くらい輝きが違います」 「なにそれ」  美織は明日香の分かりにくい例えに苦笑いをこぼした。  しかし、明日香の言わんとしている意味は理解できた。  美織は滝沢が自分に気があるらしいことを自覚していた。  なんとか気のせいであってほしいと自己暗示していたが、改めて客観的に指摘されると、余計に認めざるを得なかった。  滝沢は美織や明日香と同僚の教師で、今学期から高浜小に赴任してきた男性教師だ。  外見はハンサムと言えなくもないが、耳の下まで伸ばした髪にはパーマが当てられており、いるも強い香水の匂いを漂わせていた。  赴任当初は教師としていかがなものか、と教頭から身なりを注意されていたようだが、今ではめっきり注意されなくなっている。  口の上手い滝沢はあれこれと御託を並べて、教頭を丸め込んだのだろうなと美織は思っている。  そんな滝沢は子供たちにも人気があるようだった。  滝沢のクラスは頻繁にレクリエーションを授業に取り入れたり、道徳や総合の時間は授業の後半を体育に変更したりすることもしばしばだという話を聞いた。  退屈な授業よりも、運動をするほうが子供は喜ぶに決まっている。    それに滝沢が生徒を叱ったという話を聞いたことがなかった。  教師というものは、たとえ嫌われたとしても生徒の犯した間違いを正してあげる使命があると美織は考えていた。  どう考えても滝沢は嫌われることを恐れて注意していないとしか思えなかった。    そういう人気を取るために教育をおざなりにするところや、チャラチャラとした身なりが美織は苦手だった。
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