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気難しいというても前は夕飯だけでも、
こっちで食べたりしてたんやけど喜一がおるようになってからは母屋で引きこもり。
「よっぽど優香里ちゃんのこと
嫌いなんやね、きぃちゃんのことを
見ようともせぇへん(しない)」
「自分の子供を嫌いな親はいません!」
お母さんはちょっと恐い顔したけど
「買い物、買い物。今日は高いケーキ、
買うてもらおか~」
お父さんの腕を取って出かけて行った。
その夜も鉄オタの弟がプラレールなんかを走らせて喜一は御機嫌で寝たのに翌日から電池が切れたみたいに無表情になった。
「熱もないんやけど明日には病院へ
連れて行こか」
「うん、そないしよか(そうしよう)。
俺も大学休みやし」
キッチンのテーブルに親子四人でそんな話をしている間に喜一の姿が消えていた。
「今、ソファに寝てたんやけど」
慌てて家中探して回ってると、
「あれ、あそこやん」
弟が庭のデッキを指した。
「きぃちゃん、何してるの!?寒いのに」
お母さんが窓を開けるとデッキの端に喜一。小石をしつこく椿の根元に向けて投げていた。そこにはトメキチとユカリ。
ユカリがトメキチを舐めてやってた。
「・・・るい」
か細い声が次には少しはっきり
「ズルいわ・・・」そして
「ズルいねん!トメキチだけ」
今まで聞いたことのない大声で
「なんでお前だけ、ママ帰ってくるねん!」
次の瞬間、嘔吐みたいな号泣とデッキを駆ける足音が響いた。
「喜一っ、きいちィいいい」
お婆ちゃまだった。喜一が潰れるんやないかと思うほど抱き締めて泣いた。
お母さんがデッキに出て、さっきまで喜一が寝床にしてた毛布をお婆ちゃまの背中に掛けた。お婆ちゃまの背中を撫でながら泣いていた。
ー『自分の子供を嫌いな親はない』ー
お母さんやからお婆ちゃまの気持ちが解ってたんや・・・。
お父さんと弟の顔も涙でぐちゃぐちゃで、私も子供みたいに泣いてしまってた。
いつの間にか椿にはトメキチだけ。こっちを眺めてる。優香里ちゃんの大きな胸は痛むことはないんやろうか・・・。
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