プロローグ

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 花也(はるや)は待ち合わせ場所のカフェに一足先に入った。職場から程近いそこは、昼時で混み合っている。  運よく窓際のソファー席に案内され、花也は一息つく。  麻衣子(まいこ)は五分ほど遅れてやってきた。 「ごめん、お待たせ」  お冷グラスにちびちびと口をつけていた花也(はるや)の向かいの席に、麻衣子は滑り込むなり言った。 「全然待ってないから大丈夫。それよりごめんね、わざわざこっち来させちゃって」 「大丈夫よ。ちょうど式場に用事があったし。家にひとりきりも退屈だもん、たまには外出したいのよ」  先月仕事を辞めた麻衣子は、新しい家で生活にしばしばうんざりしているようだ。これまで商社の総合職としてバリバリのキャリアを歩んできた彼女のこと。たまの外出と言えば、産婦人科の定期検診か、式の打ち合わせしかない。早々に退屈するのは目に見えていた。  彼女は来月結婚する。  同じ会社の、十歳年上の男性と。  現在麻衣子のお腹には新しい命が宿っている。元々家系的につわりの軽いタチらしく、麻衣子はケロリと健康的な顔で花也と同じハンバーグランチを注文した。  披露宴は両家の親戚と職場の人間、あとはほんのわずかな親しい友人だけ呼んだ小規模なものだが、二次会は学生時代の友人も多く呼んで、レストランを貸し切る予定だ。花也は披露宴にも、そして二次会にも出席する。 「花也(はるや)は恋人、できたの?まさかあのバカ光也(みつや)、まだベッタリなんじゃないでしょうね?」  先に運ばれてきたセットのサラダにパクつきながら、麻衣子が言った。その言い草に花也は苦笑を漏らす。 「仮にも元恋人に酷い言い草だな」 「元恋人だからこそ言えるのよ」   麻衣子がふん、と鼻を鳴らす。  花也(はるや)の双子の兄・光也(みつや)と麻衣子は、高校一年生から大学三年生までの六年間付き合っていた。  てっきりこの二人はこのまま結婚するものだとばかり思っていたから、別れたと聞いたときは心底驚いた。
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