プロローグ

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 それを言ったら、いつも喧嘩ばかりしていた二人が付き合いはじめたと聞いたときの驚きはその比ではなかった。花也(はるや)は当時の衝撃を思い出して頬をかく。 「てっきり仲が悪いとばかり思ってた二人が付き合いはじめたときも驚いたけどさ。かなり長く付き合っていたじゃないか。僕は二人がこのまま結婚するのかと思ったよ」  ……と、いうのも花也の密かな願望だ。  光也と麻衣子が結婚すれば、中学以来の親友と、花也は義姉弟(きょうだい)になれる。  意志の強い黒目がちな目、知的な眉にすっと伸びた鼻梁。はっとするほど美人だが、それを鼻にかけることにないさっぱりとした性格。正義感が強く友人思い。この親友が、花也は昔から大好きだ。 「あら、花也は間違ってないわ。仲悪いわよ、私達は最初からね」  麻衣子はサラダを彩る黒い大根をポリポリと囓りながらこともなげに言った。 「ええ?じゃあなんで何年も付き合っていたんだよ」 「私達、お互い意地が悪いの」 「意味が分からない」 「いいの、花也は分かんなくて」  と、麻衣子は肩を竦めた後、目を吊り上げる。 「それより花也、恋人よ。まだ光也とルームシェアしてるの?あんたモテるんだから、選り取り見取りのはずでしょ?なのに!あいつがいたんじゃ、いつまで経っても恋人ができないじゃない!」 「別にいいよ、そういうのは……」 「そんなんだからいつまでたっても童貞なのよ」 「ちょっ……! 麻衣子!」  花也は真っ赤になって周りをキョロキョロするが、幸い、昼時のほどよい喧騒に麻衣子の問題発言はかき消されてしまった。「昼間のカフェでする話じゃないだろ」と花也は麻衣子を睨んだ。麻衣子は赤い舌をちろりと見せて肩を竦める。そしてタイミングよくランチが運ばれてくると「わぁ、美味しそうね!」とコロリと態度を変えてきらめく笑顔を見せた。 「花也早く食べないと。昼休み、終わっちゃうわよ?」 「……まったく」  麻衣子の言う通り、運ばれてきたばかりのハンバーグはとても美味しそうだ。この店の自家製デミグラスソースは会社の食通の女子達の間でも評判がいい。  意識せずとも勝手に口の中に唾液が満ちてきて、花也はごくんと喉を鳴らすと素直にカトラリーに手を伸ばした。  麻衣子はハンバーグランチをぺろりと平らげ、デザートにショートケーキを追加した。
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