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二人は「はぁい」と揃って返事をすると座席シートに大人しくなった。
じいちゃん家に着いたらあれをしよう、これをしよう。さっきまでの暗い顔とは打って変わり、光也に釣られて楽しそうに話をする花也の姿に、父親は満足そうに頷く。
しかし母親は、そんな子ども達を見て密かに溜息を吐いた。
弟・花也に友達がなかなかできないのは、その引っ込み思案な性格だけのせいではない。過保護な兄・光也の存在が大きく関係ある。
社交的で誰とでもすぐに打ち解ける兄の光也は、花也にとって絶対的な存在だ。彼がそばにいるうちは、二人のその関係性もきっと変わることはないだろう。
(ちゃんとお友達ができるといいんだけど……)
母は困ったときによくそうするように、頬に手を添えバックミラー越しに二人の息子を見つめた。
*
「おーい、転校生が来るって、知ってるか?」
朝からその話ばかりだ。
笠原育己はさっきから繰り返される会話に、いい加減うんざりとしていた。
転校生なんて、別にめずらしいものでもない。そんなことでいちいち騒ぐのは、小学生のすることだ。中学一年生にもなって、そんなことで大騒ぎするなんて、周りの生徒は頭がどうかしている。
育己は小さく溜息を吐くと、騒ぐクラスメイト達を冷たく一瞥した。
「うっそ、俺知らね。こんな時期に? だって二月だぜ? 男? 女?」
「さあ?でもどうせなら女がいいよなぁ。可愛い子」
わいわい、がやがやと、喧騒は鳴り止まない。
「男二人だ。どうやら双子らしいぞ」
日直の生徒が日誌片手に教室に入ってきて早々、なぜか誇らしげに報告する。
「おお!それで!?転校生の顔は見たのか?」
「いや、後ろ姿だけだった。顔は見えなかったよ」
クラスメイトの誰かが「ちぇ。なんだぁ、つまんないの」と唇を尖らせたところに、タイミングよく担任が教室に現れた。
「おーい、席つけよー」
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