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「その話を聞いてから、一度蔵に入ったことがあってね。見上げるほど積んであった本が、一冊も無くなってた。ただ、何だろうね。床に一枚だけ、紙の切れ端が落ちてたんだ。千切ったというより、誰か噛んだような、そんな形でね」
あなたの湯呑みはすっかり冷めてしまっていたが、まだ一滴として中の液体は飲まれていなかった。
「昔はね、間引きって言って、色々と問題がある子なんかは、その、間引かれていなくなったんだよ」
老婆はやっとその眼鏡の目をあなたに向ける。右の方は白濁して、よく見えていないのだろうと感じた。ただ、思ったほどには皺がなく、見た目よりずっと若いのかも知れない。
「万引きの語源が、間引きだっていう話は、知ってるかい?」
そう言うと、店主はあなたの盗った本を持ち上げ、ゆっくりと首を横に振った。
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