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見つけたのは偶然、少し早く駅に着いて何となく向かいのホームに目を向けた。すると本を読んでる彼がいた。本をただ読んでいるだけの人ならそこまで気にならなかった、しかし彼の読んでいたのは私がこの前読み終わった本。
わかる!わかるよ!いいよねそれ!まさかの展開だったけどいい終わり方だったのよ!それを読むとはお目が高い!!
じわっと思い出し感動し、じぃーんと胸が熱くなった。ひとり心でウンウンと頷き余韻に浸っていると向かいに滑り込む快速電車。折り返しのその電車は乗っていた全ての人を吐き出し、その口で新しい人々を飲み込む。一番前を陣取っていた彼は素早くひとり席を確保し本格的に読書体制に入る。そしてそのまま目の前を通り過ぎていった。
それ以来同じ時間、同じ場所に立つ彼の線路を挟んだ向かいに立ち、彼が何の本を読むのかを目を凝らし探り当て、悶える日々。
ほんの少しの逢瀬、しかも一方的な。でも私は焦がれている、彼がその手にもつ新しい本に。
恋愛、ミステリー、ファンタジー、SF、純文学、ラノベ、実用書、時には絵本。わかる限り何でも読んでいる彼。
時に私の知らない新しい本との出会いもくれる。
そして彼は自由だ。大体小説だと3日ほどかけて読破しているようだが偶に読んで数行で閉じて新しい本を取り出したり、すごく分厚い小説だったのに次の日には新しい本に移っている時もある。まぁ私もそうだし本読みは大体みんなそんな感じだろうけど。
何にしろ朝の5分、ささやかな楽しみ。
彼が居なくなったら私の番。にまにまニヤニヤ騒ぐ心をそのままにカバンから取り出すハードカバー。
さて、私も、浸りましょうか。
付属のしおり紐をひっぱり、ぱっかりと開いた白の舞台の文字を追った。
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