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クリスマスが近づいてくる。
彼は、未だに本を置いたままで、当然理由を教えようともしてくれない。
ついに店長が、声をあげた。
「本を閉じたって、何かが変わるわけではないじゃないか。こちらで保管しておきなさい。今日、他のお客様からクレームが来たんだからな。」
「はい、分かりました。」
「…はい。」
なんでだろう。
店長の言う通り、本を閉じたって、何かが変わるわけではないのだ。
だけど、彼の真剣に頼む顔には、何かがあるんじゃないかって…。
夕方、いつも通り、彼は、カフェに訪れた。
今日は、夕方のカフェには人が訪れない。
いつもと同じ苦めのコーヒーを注ぎ、彼の左手辺りにコト、と置いた。
「…あの、」
「小説の事だろう?その件は、今日で最後にするよ。今まで迷惑をかけて、ごめん。」
「…いえ。では、こちらで保管しておきますね。」
「ああ。よろしく。…じゃあ、今日はコーヒー、もう一杯頼もうかな」
「かしこまりました。」
意外に、彼はすんなり受け入れてくれた。
一体、何を理由に、今まで開いたままだったのだろう…。
彼は二杯目のコーヒーをゆっくりすすると、席を立って、いつも通り手を振った。
「ありがとうございました。また、お待ちしております。」
彼は静かに微笑むと、私に小説を預けて、去って行った。
……彼と会ったのは、これが最後だった。
いくら待っても、彼はそれから、カフェに訪れる事はなかった。
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