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ニーナが四季村の元に駆けてゆく。
「四季村」
「ニーナ」
ふたりが抱き合う様子を、三河は眩しそうに見つめている。
ニーナを抱き締めながら、四季村は顔を上げた。
「三河くん。それから、ニーナ。ゴメン。不覚だったよ。俺、早寝早起きだからさ。眠気でつい、うとうとしてた。そうしたら、頭を撃たれたんだ」
「君は不死身だな。四季村くん」
三河が声を上げた。
四季村は、ニーナを抱き締めている。そして、ここぞとばかりにニーナの尻を、撫でている。
「ああ、俺は撃たれたんだ、死んだんだなと思ったよ。でも、どういうわけか分からないんだけど、頭が弾丸を弾き返してたんだ。傷が気になったから鏡を覗いて見た。頭に一センチぐらいのハゲが出来ちゃってたけど、他は別に何ともないんだ。身体もピンピンしてる」
三河は以前読んだノンフィクションを思い出していた。
FBIの統計によれば、銃撃事件の被害者の頭蓋骨が銃弾を弾き飛ばしたせいで死なずに済んだ――しかも後遺症も残らなかった、というような不思議な事例は、ごく稀にだが確かにあるのだという。
その原因は不明だが、恐らく命中した銃弾と頭蓋骨との接触角度や被害者の身体の動きなどが複雑に絡み合って、奇跡のような結果となるのでは? とのことだ。
実際、川面に小石を投げたとき、角度によっては小石が水面上を跳び跳ねる。それと同じような現象が、人体に命中した銃弾でも起きることがごく稀にあるのだ。
いずれにせよ、四季村は生きていた。
四季村は生きていたんだ。こんな嬉しいことはない。小難しい理屈なんか、どうだっていいじゃないか!
「撃たれた後、部屋でひとり、鏡を見てさ、助かったあ、命拾いしたあと思った瞬間、意識が遠くなったんだ。そのまま、ずうっと気絶してた。さっき、ようやく目覚めたとこだよ。ずっと夢を見てた。コタツで蜜柑と餅を食う夢」
四季村の手が、抱き締めるニーナの尻を相変わらず撫でている。
さすがにニーナが、尻の異変に気づいたようだ。
「四季村! 調子に乗るな」
ニーナから叱られた四季村が、朗らかに笑っている。
やれやれ。四季村くんは相変わらずだな。
しかし、良かった。てっきり四季村は死んだものとばかり思っていた。
「良かったなあ四季村くん。本当に良かった」
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