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「俺も、ニーナの事が好きだよ」
ニーナは、何も言わない。何も言わず、ただ四季村を見つめている。
「二人で、必ず生きて帰ろう。だから、帰れる状況になるまで、それぞれの部屋に籠ったほうが安全だ。そう思わないかい」
「思わない。一緒にいたほうが安全だと思う」
ニーナの意思は固い。説得は無理だろう。四季村はそう考え、ニーナの手を取った。
「わかった。一緒にいよう。でも、ここにいたら危険だ。俺の部屋に行こう。その前に、六ちゃんの亡骸を移動させたい」
「移動? どこへ」
もっともな質問だ。もちろん四季村は、既に答えを用意している。
「地下室へ移そう。ここに放置してたら六ちゃんが可哀想だ」
しかし、ニーナは思ったのだった。遺体は下手に動かさないほうが良いんじゃないか。後で警察が捜査するときに、支障が出るんじゃないのかな。
「四季村、六条くんはそのままにしておこうよ」
「なぜだい」
四季村が、きょとんとしている。
「いやさ、勝手に動かしたら、鑑識とか現場検証とか、後で色々と不都合が出るんじゃないのかな。天候が回復して警察がここに来るまで、現状を維持したほうが良いよ。私はそう思う」
警察がここに来るまで。どうやって警察をここに呼ぶのか。今それを議論するのは無意味だった。四季村四郎は、暫く考えていたのだが、やがて頷いた。
「ニーナの言うとおりだな。でも、せめて毛布か何かをかけてあげようや」
それなら異存は無かった。二人は連れ立って二階へ上がり、六条録男の部屋から毛布を持ち出した。再び一階の居間へ戻り、六条録男へ毛布を掛けた。
ふと、二条ニーナが不安そうに言葉を発した。
「なあ、本当に六条くん、死んでるんだよな」
言われてみれば、確かに六条録男の死を、きちんと確認していなかった。
四季村四郎は、六条録男の心臓に耳を当てながら彼の手首を手に取り、脈拍を調べた。やはり、生きている反応は無い。
「死んでるよ。確かに、六ちゃんは死んでる」
六ちゃんは死んだ。六ちゃんは死んだのだ……。
四季村は蹲ったまま、声を出さずに、ただ泣いた。六条録男は、四季村四郎にとって、二人といない本当の親友だったのだ。
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