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一子の人差し指が動いた。轟音が、大気を揺るがした。
四季村が、どっと倒れた。
四季村が撃たれた。側頭部を、撃たれた。――至近距離から、四季村が拳銃で撃たれたのだ。
頭をガクンと傾けて倒れる四季村の姿が、三河の瞼の裏に、残像した。
「四季村くん!」三河が叫ぶ。
一子の青白い顔が、網膜の奥で揺れた。
一子。人の命の重さを、枯葉ほどにも思わぬ悪鬼。世にも恐ろしい女が、眉ひとつ動かさず、上目遣いとなって三河を見つめている。一子が、三河の身体の中心辺りを狙いながら、拳銃を握った右手を真っ直ぐ突き出した。
一子の瞳孔が、狭まった。
一子が、再び撃った。轟音。拡がる硝煙の香りが、死線を意識させる。咄嗟に三河は身を翻し、扉をくぐって廊下へ転がり出た。すぐに立ち上がる。おろおろしているニーナの肩を抱き、階段目指して全力で走った。
「ちょっと、何いまの音! 四季村は? ねえ、四季村は?」
ニーナがうわ言のようにつぶやいている。
「四季村くんは、撃たれた」
走りながら、三河が叫ぶ。
「四季村くんは、頭を撃たれた。撃ったのは一瀬一子」
「四季村! 待って、四季村が!」
ニーナが泣き叫んでいる。
「四季村を助けないと」
「四季村くんは死んだんだ!」
背後から、銃声。弾道が耳元をかすめる。衝撃波を間近に食らったせいか、耳鳴りがする。
ニーナが悲鳴した。だが、大丈夫だ。弾道はかろうじて逸れている。
ニーナを強引に引きずって、階段を降りた。
「いま戻ったら、一瀬から俺達ふたりとも撃ち殺される」
「四季村! 四季村!」
ニーナを引きずりながら、居間へと逃げ込んだ。扉の隙間から、階段の様子を伺った。一子が降りてくる気配はない。
三河は、左手の刀を手繰り寄せた。
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