軽音サークルがゆく

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良かった良かったと頷く三河。ふいに一子のことが気になったから、後ろを振り向いてみた。 「あっ。いない! 逃げられたあっ」 一瀬一子の姿は、既に消えていた。 遠くにパトカーのサイレンが、木霊していた。サイレンが近づいてくる。 玄関の外に飛び出してみた。 辺り一帯を探してみた。 だが、一瀬一子の姿は影も形もない。 除雪車を先頭に、少し間を置いてパトカーが近寄って来る。 「おーい」 手を振って叫びながら、三河はパトカーの前に飛び出した。 その瞬間だった。はねられたのだ。 三河はパトカーに、はね飛ばされたのだ。 衝撃と、急ブレーキの音が、降り積もった雪にかき消された。 「だ、大丈夫ですか」 パトカーから降りた警察官が、雪壁に頭を突っ込んでいる三河に、あたふたと駆け寄った。 雪だるまになった三河は、積雪から頭を引っこ抜いた。 怪我ひとつ無い。 「大丈夫ですか。怪我はありませんか」 警察官は青ざめている。 「そんなことはどうだっていい。痛くもかゆくもなーい。それよりも、殺人犯の一瀬一子が逃げたんだ。ここに来る途中、見なかったか?」 警察官らは皆、一様に首を傾げている。 「なんてこった! オーマイ神様!」 真っ白くて冷たい雪の上。悔しさのあまり三河は転げ回った。だが、雪に埋もれて嘆いても、後の祭りだ。 三河は叫ぶ。 「警察のみなさん、お願いします。殺人犯一瀬一子を絶対に捕まえて下さーい。犯人を絶対に逃がすなあっ」 ようやく警察官達は、事態を把握できたらしい。 「犯人が逃走したんですね。分かりました。付近一帯の検問を緊急手配しましょう」 現場に到着した警察官らの動きが、慌ただしくなった。 点滅する赤色灯の光に照らされながら、三河三吾はひたすら歯軋りした。 嫌な予感がする。現場に到着した警察官達の顔をひとりひとり見たのだが、どの警察官にも覇気のようなものが感じられない。 見るからにやる気が無さそうじゃないか。まるで炭酸の抜けたサイダーだ。こんな砂糖水のような警察官達に、一瀬一子ほどの悪知恵が働く大悪党が、本当に捕まえられるのか。 一瀬一子はまんまと逃げ失せて、顔と名前を変え、遠く離れた彼方で高笑いしながら、次の獲物を狙うのじゃあるまいか。 最後の最後に油断してしまった。悔やんでも悔やみきれない。 挫折感に押し潰されそうになりながら、三河は決意を固くした。 必ず、警察官になる。 それにしても、決意を固くしただけでは、悔しさはまるで晴れない。 だから三河は、降り積もった雪に、頭からダイブした。 大の字になって寝転がる。 空を見上げた。 夜は明けつつあった。
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