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疑惑
私は殺人とは無縁の世界で息をしているつもりでした。
私が夫と出会ったのは高校時代の頃です。
その頃の私は他者との繋がり、例を挙げると恋愛や友情などの絆というものに純粋に疑いをもっていたのです。
私は人の繋がりとは他者に対する絶対的な奉仕によって成り立つと考えます。
それをパートナーとなる二人のどちらかの命が尽きるまでやり遂げることが必要不可欠なのです。
こんなことを本気で考えていたので、異性に恋をしても臆病になってしまうのです。
臆病者の私はいよいよ寂しさや自分の無力さに打ちのめされて、死んでしまおうかとおもいました。
ですが、一人で死ぬのはあまりに寂しので今度は恋人の代わりに、一緒に心中してくれる人を探すことにしました。
そんな時に出会ったのが今の夫だったのです。
出会ったと言っても、初めて会ったのではなく夫は私のクラスメイトでした。
彼はクラスの中で特別目立つわけでもないし、かと言って教室の隅にいるような生徒でもなかったのです。
至って普通の生徒なのですが、私は彼の目がとても黒く濁っていることに気がつきました。
全体的に細身で身長も低い。丸顔で大きな二重まぶたが印象的な顔でした。
特にその二重まぶたが、まるで出目金のようで皆から「デメちゃん」などと言われるような男でした。
そんな夫を気になり始めたのは、私が休日の日に偶然彼を見かけたときのことです。
私はその日、近所の市立図書館に行って勉強していました。
その帰り道に河川敷で彼のことが見えました。
私は自電車に乗っていたので彼を見ていたのは、ほんの数秒です。
河川敷の川の前に立っていたデメちゃんは、空から水面に反射する夕暮れの光をジッと眺めていました。
横目で見える彼の黒く大きい瞳が光によって美しく輝いて見えたのです。
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