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使徒会本部――。 庭園が見える渡り廊下であぐらをかいて座っているのは、黒土タロウだ。 ちょうど木陰になっているその場所で、刀の手入れをしていた。 隣には大男――。 白戸ゼンが座わり、庭を眺めている。 黒土は口を尖らせながら愚痴をこぼした。 「昨日の悪魔、最悪だったじゃん。ネバネバベトベトしてたしさぁ」 「あー」 黒土が手を止め、ゼンを半眼で睨んだ。 「聞いてる?」 「聞いてる」 ゼンは少し笑って頷いた。 「マジでかったりぃよな。最近、弱い悪魔ばっかだしよぉ」 背後で渡り廊下を歩く音がして、ゼンは振り返った。 使徒会大佐カズサと、見知らぬ小柄な女性がにらみ合っていた。 「どいてください」 「てめぇがどけよ」 カズサの不機嫌そうな顔を見ていて思い出す。 今日は「文原イトノ」という女性が入隊する日だ。 指導役に任命されたカズサが、 入隊試験で「手を焼いた」と愚痴っていたのを思い出す。 そうか、カズサを睨みつけているのが噂の新人か。 気づいたゼンは、声を殺して笑った。 「そこの大っきい人! 何笑ってるんですか? 何がおかしいんですか?」 イトノと思われる眼鏡の少女が肩を怒らせる。 ゼンは一つ咳払いをして頭を掻いた。 「悪い悪い。いやぁ何、40年くらい前のことを思い出してな」 イトノは眉を寄せ「ハァ?」と不機嫌な声を出して背を向けた。 同じくカズサ大佐も機嫌が悪い。 「おい、イトノ。白戸少将に向かってその態度は何だ」 「はいはい、失礼しました。部屋に戻るからついてこないでください」 「てめぇ! 逃げんな!」 喧騒が去った後、刀の手入れを続けるタロウが口の端を曲げた。 「はぁあ。また面倒そうなヤツが増えたな」 ゼンは「お前が言うな」と思ったが、言葉になる寸前で留めた。 庭園を風が通り過ぎ、木の葉と漏れ日が揺れる。 ゼンは思い出す。 黒土タロウが今以上に「面倒な」使徒だった頃を。
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