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「何度、裏切られても赦す人だったんだよ……」 「……」 「俺は内心で何故赦すんだって思い続けたよ。 そんなんじゃまた裏切られるぞって。 案の定、裏切られて、死んだよ」 黒土は背を向けたまま話し続ける。 「俺は人の醜さを……己の身かわいさの裏切りを何度も見てきた。 他人は信用に足らない。信じられるのは自分だけだ。 無条件に人を信じられるのは、そいつがガキで世間知らずなだけだ」 振り返った黒土の顔が美しすぎて、ゼンが内心で感嘆の声を漏らす。 「だから、白戸ゼン。他人と直ぐ打ち解けるお前が嫌いなんだよ。どうせ裏切るくせに」 「ハハハッ! そうだな。場合によっては裏切るだろうな」 「はぁ? 喰えない野郎だ」 ゼンは黒土の女装を見届け、資料をしまって立ち上がった。 目的の地に辿りつくなり、一足先にヘリから落下した。 それはゼンが繰り返してきた呪縛。 投身自殺。 空を切るその瞬間だけは、何も考えず、何にも縛られず、独りでいられた。 わずか七十三秒の空の旅は終わり、河原に血が飛び散る。 最初のうちは飛んでいる間に気を失ってくれたので痛みも感じずにいたが、 何度か自殺するうちに慣れ、最後の最後までキッチリ意識があるようになった。 痛みが全身を襲い、苦しみに自然と顔が歪む。 噛んだ歯が割れたこともあった。 それほどに、痛みは鋭く魂を削っていく。 柔らかい心は、簡単に摩耗していく。 「カラクリ」と呼ばれる男の末路は、 ゼンの末路かもしれない。 そう思いながら、再生していく身体を少しずつ動かし、立ち上がった。 土手を上り、街が赤く色づくのが見えた。 ぬるい風と喧騒がゼンの肌を撫ぜた。
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