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黒土はヘリで降り立った場所――。 人のいない神社でポリタンクの中身を頭から被った。 朱色の着物が塗れ、特有の悪臭が鼻をつく。 不快感から早く解放されたくて、懐から出したライターを眼前に掲げる。 「チッ。いつまで経っても慣れないな……」 ライターが灯った瞬間、炎が全身に回って皮膚を焼いた。 歯を食いしばっても耐え難い激痛が身体中を巡る。 炎が身体を巡る間、束の間の幻影を見た。 それは何百年も昔――。 黒土が異なる名前を名乗っていた頃の夢である。 それは――。 最早、忘れかけていた情景――。 当時、仕えていた君主の最期の瞬間であった。 額に汗を浮かべ、服装も乱れた君主が槍を立て、仁王立ちしていた。 家臣の叛逆によって、追い詰められた君主は、 額に脂汗をにじませていた。 黒土は心の中で「やっぱり裏切られた」と呟いた。 その胸中は聞こえるはずもないのに、君主の返答へと繋がった。 「裏切られるかもしれないとは思っていたさ」 「では、何故、あやつを信じたのですか?」 「あのな。俺は猜疑心が強いんだ。最初っから信じちゃいねぇよ」 黒土は君主の続きの言葉を待った。 「だから……『こいつになら裏切られても良い』そう思えるヤツだけ登用するんだよ。     
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