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わずか数秒の顕現でも犠牲者が出るのは止められない。
「だから俺たちが来たんだろ?」
黒土の冷ややかな眼にゼンが弱音を吐く。
「寒気がひどいな。初戦にしてはかなりの大物だぞ……つーか、俺、家に帰れるのかなぁ?」
「心配なんだったら帰れよ」
黒土はそう言い放ち、担いでいた青いポリタンクの蓋を開け、
頭からかぶって火をつけた。
特有の匂いが鼻を突いた後、一瞬で炎が広がり、黒土の身体を包んだ。
悲鳴一つ上げない黒土は、しかし、震える身体を丸め、地に膝を着く。
見開かれた瞳、震える身体から、壮絶な「痛み」を感じざるを得ない。
肌を赤黒く染める炎は、黒土の周囲十か所に収束していき、十本の刀を顕現させた。
次の瞬間――。
痛々しい火傷も消え、黒衣や服、白い頭髪も再生されていた。
「十獄絵図」
一振りごとに威力を増していく刀であり、
六太刀以上先を見た者はいないと言われる呪具だ。
ゼンは事前に自殺を済ませ、準備をしていた為、
その場で改めて自殺をする必要はなかった。
否、ゼンの自殺は場所を選ぶ為、
戦闘場所によっては呪具を発動することができないのだ。
特に今回のような地下であれば「不可能」と言っても過言ではない。
ゼンが生前に選んだ自殺は「投身」であった。
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