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うらみ葛の葉
幼い頃、私は魔女になるのが夢だった。
魔法が使えれば、映画やアニメの世界みたいに、毎日が刺激的で楽しくなると信じていた。
箒にまたがってネオンできらめく街を上空から眺めたり、杖を一振りして魔法のドレスと靴に着替えたり、素敵な人を魔法で魅了してドラマチックな恋をしたり……。
たくさんの憧れは、今ではすっかりむなしい夢になってしまった。
魔女になったからといって、毎日が刺激的で楽しくなるわけでも、ドラマチックな恋ができるわけでもない。
ただ、魔法が使える、というだけだ。
ぎゅうぎゅうに押し込められた満員電車の中で、雪乃はカエルになったような気分でドアに張り付き、後ろの乗客が体重をかけてくるのを必死で耐えた。
背中にずっしりと圧し掛かるサラリーマンをカエルに変えてしまえたら――。
ほんのひととき、それは素晴らしい思いつきに感じたけれど、彼一人をカエルにしたところで、その後ろにもはち切れんばかりに乗客がひしめきあっているのだから、カエルにされたサラリーマンは誰かの靴であっけなく踏みつぶされ、あいた隙間もあっという間に他の乗客たちに埋め尽くされてしまうにきまっている。
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