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結局どうすることもできないまま、JR中央線の殺人的な通勤ラッシュに耐えて会社に向かう毎日を、雪乃は社会人になってから、もう三年近く続けていた。
ようやく東京駅に到着して電車から降りても、駅の構内は行き交う人で溢れかえっている。
声をかけ合うことなく必要最小限の動きで互いに避けながら、それぞれが別の目的地に向かって足早に進んで行く。
雪乃もそれに倣って、八重洲北口を目指して人波に飛び込んだ。
青空の下へ出ても、歩道が見えないほどの人混みに毎朝のことながらうんざりする。
それでも、外の空気を吸えるだけで、いくらか気分は楽になった。
横断歩道を渡り、中央通りを進んで行けば、日本橋に行きつく。ここまで来ると、歩行者の姿はまばらになった。
江戸時代にはにぎやかな魚河岸があったらしいが、今では川の上を高速道路の高架橋が走っているために、日がささず川の水も暗く濁って見えるのが残念だ。
日本橋の両側には阿吽の獅子像が並んでいて、橋を渡ろうとする人を厳めしい顔で見張っている。片方の前足を上げて舵のような紋章を抱いている姿には愛嬌がある。
獅子像を通り過ぎた先、橋の中央には、翼の生えた麒麟の像が二体、背中合わせに、ぴんと胸を張って誇らしげに鎮座している。
その麒麟の足元に、艶やかな漆黒の羽をはためかせて、一羽のカラスが舞い降りた。
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